「サーチライトと誘蛾灯」読んだ


サーチライトと誘蛾灯 (第10回ミステリーズ!新人賞受賞作)

櫻田さんは以前デイリーポータルのライターをやっていて、ものすごくおもしろい記事を書いていた人だった。地方在住なんだけれども、デイリーのイベントで東京に来たことがあって、その時に一度だけ直接話をしたことがある。推理小説が好きで、特に泡坂妻夫が大好きだといっていた。

僕も泡坂妻夫何冊か読んだことある。あれすごくおもしろいんだけれども、僕は推理小説のケレン味みたいのが好きだ。泡坂妻夫はそういうのを意図的に外して、すっきりと謎と論理展開そのものを味わわせるタイプなので、そんな好みの作家じゃないな、とか思っていた。

(でもしあわせの書とか本当に超ものすごいから推理小説読まない人もこれ買って読んだ方がいいです。こんな本が本屋で売ってることがすごい、ってレベル)

それから数年経って、櫻田さんが「サーチライトと誘蛾灯」という短編で東京創元社の新人賞をとったことを知った。東京創元社っていったらもう推理小説界では大レーベルだ。男だったら誰でも一度は創元推理文庫出版したいって思うだろう。最高の女とベッドでドンペリニヨン、手元にはおれの書いた創元推理文庫ってイメージある。

どんな小説なんだろう。「サーチライトと誘蛾灯」…暗闇の中で追う光と待ち受ける光だ。わりと男臭いハードな世界観なのかな。でもそれだと創元社っぽくない気がする。櫻田さんのイメージとも違う。

いや、著者のイメージだったら意外とバカミスみたいな感じなのかもしれない。推理小説って一般的に現実にはありえないような設定や解決があって、それをバカ方向に膨らませたのがバカミスっていうんだけれども、櫻田さんが書くバカミスおもしろそう。

しばらくして表紙が公開になった。懐中電灯持って歩いているおじいちゃんだ。お、これはひょっとしたら「日常の謎」系のやつかもしれないぞ…。いかにも創元社っぽい。日常の謎っていうのは今どきでいうと「氷菓」みたいなやつ。そういえば審査員に米澤穂信入ってるな…。やったー!日常の謎大好物!お腹減らして待ってます!

で、今日になって読んでみたらそのどれでもない。
前に櫻田さんが好きだっていっていた、泡坂妻夫っぽい作風の短編だった。「泡坂妻夫っぽい」なんていうとなんかマネしてるだけの小説に聞こえるかもしれないけれども、これは全然悪口じゃない。泡坂妻夫風にすっきりとシンプルに謎と論理展開そのものを楽しませるって、本当にすごいことだ。
しかも会話が泡坂妻夫よりずっとおもしろくて楽しい。まるで隙のない工芸品をじっと見つめているような読書体験だった。はっきりいって感動した。

最初に書いたけれども、僕は泡坂妻夫の作風がそんなに大好きってほどじゃない。でも「サーチライトと誘蛾灯」読んだら、なんか著者が耳元で「ほら、こういうのっていいでしょ」って、また別の視点からシンプルな作風の良さを教えてもらっているような気になった。
ここで時間が遡行する。そういえば…泡坂妻夫のあれも…あれも…「サーチライトと誘蛾灯」みたいで、おもしろかった!そうか、そういうことか。ありがとうございます!

櫻田さん、今回短編で新人賞をとったけれども次は長編を書いたりするんだろうか。それともまた短編かな。なんか本当に楽しみです。

サーチライトと誘蛾灯 (第10回ミステリーズ!新人賞受賞作)

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